プロジェクトの紹介

発達障がい等支援糸島プロジェクト」には多職種の専門家 ― 保育士、保健師、幼稚園教諭、小学校教諭、中学校教諭、言語療法士、理学療法士、作業療法士、教育・福祉の行政職のほかに、医師、特別支援学校教諭、社会福祉士、臨床心理士、臨床発達心理士、NPO、大学・研究所の研究者、学生ボランティアなどが参加しています。もちろん、子どもや保護者もメンバーです。


1.はじまり

平成11年当時、糸島地区1市2町(現糸島市)の保健師は、乳幼児健診において運動発達の遅れ、視力障がい、聴覚障がい、慢性皮膚疾患、けいれんなど、この時期に現れやすい身体的健康問題に対応してきました。しかしながら、広汎性発達障がいなど、行動やコミュニケーションに問題がある乳幼児へのアプローチができておらず、早期に発見して早期に適切な療育ができるシステムが無いため支援の限界を感じていました。

こうした時期に、社会的認知の初期発達に取り組んできた九州大学発達心理学研究室と出会い、
①乳幼児健診での共同注意行動に着目したスクリーニング問診項目を作成する
②共同注意行動の出現時期を標準化し、共同注意の発達メカニズムを解明する
③乳幼児健診後の二次スクリーニングや療育体制の充実を図る
この3点を長期目標に、保護者や保育所、幼稚園、学校関係者の協力を得て、九州大学との共同で図1に示す糸島プロジェクトを始めました。

図1

2.現在の概要

平成22年、前原市、二丈町、志摩町の1市2町が合併し、人口10万人の糸島市が誕生しました。周囲を海と山に囲まれた自然豊かな田園地帯ですが、福岡市の中心とは電車で約30分と、都心の通勤通学圏にあり、平成17年には市の北東部に九州大学の移転が始まったことで、ますます発展が望める街になりました。
しかし、市内には特別支援学校、発達教育センター、児童精神科外来を有する専門病院、児童相談所、専門的療育施設がなく、また、東は政令市、南西は佐賀県という地理的条件により、近隣の専門機関の利用がしにくいという、発達障がい児が育つには県内でもかなり不便な地域でした。

そこで、糸島市ではいわゆる専門機関がない環境を逆手に取り、地域内に存在する教育、保健、福祉、医療福祉の各関係機関の連携をシステム化し、それぞれの立場を理解し、お互いに協力できる仕組み『みんなで応援団方式』を作って、図2に示すように各種事業に取り組んできました。

図2



3.今後の展望

保健、福祉、医療、教育、研究機関の各部門が、それぞれの立場でお互いに連携をとり、時には共同で事業を実施しながら15年が経過しています。
研究については、初期の発達横断調査を実施した子どもたちが、すでに高校へと進学する年代になり、義務教育を終えた後の可能性を探るなど、そのテーマも変遷しています。

また、プロジェクトから生まれた事業が、そのまま市の事業として定着したものもあります。
プロジェクトの主事業である移行支援キャンプや発達コロキウムは、開始当初は、九州大学の関連で、日本全国、時には外国からも乳幼児の発達研究に携わられている著名な研究者が参加してくれました。しかし、地域に根付いたものにするためには、地域に根付いた専門職の育成が必要との認識が高まり、現在は地域密着型の各種プロジェクトが進んでいます。

15年を超えるプロジェクトで、社会情勢や関わる人たちも随分と変化してきました。
なぜ糸島でこのプロジェクトを始めたのか、どのような苦労があって今のシステムが構築されたのかを忘れてしまいがちなのも事実です。
時代に合わせて、当初の目的を変更する勇気も必要です。社会や担当者が変わっても、常に問題意識を持ちながら、建設的に前に進んでいく人材育成と、強力なネットワークづくりが重要だと痛感しています。

平成11年からのプロジェクトの変遷についてはこちらを参照